[Album] Awesome City Club – Awesome City Tracks (2015.04.08/MP3/RAR)

音楽のマジックをこれでもかと感じる一枚に出会った。それも新人バンドのデビュー作で。
Awesome City――架空の街のサウンドトラックをテーマにした7つの楽曲が並んだアルバムには、聴く人それぞれの日常にすっと溶け込む不思議な音楽体験が待ち受けている。

男女二名のボーカルに、変幻自在のコーラスワーク。快楽中枢を刺激するアレンジに彩られたポップミュージック。楽曲ごとの”キャラ立ち”がはっきりしているので、7曲という分量がほど良い加減だ。M1「Children」の祝祭の感覚にあふれた華々しい幕開けから、めくるめく音楽空間に飲み込まれていく。
聴き進めると、そのFunka Flower――じゃなくて百花繚乱な音楽ルーツの混ざり具合に思わず笑いがこぼれてしまう。シンセポップ~チルウェイブといった極めて現代的な音楽像にもアプローチしつつ、ソウル/ブラックミュージックのアダルトな味わいを随所に感じさせる。脳みそキュンキュンいわされながら、お腹の奥の方がほっこりしていく気分というかなんというか..多岐に渡る要素を吸収したカテゴライズ困難なクロスオーバー感は、総称としてのシティポップスの区分けにでも落とし込むと、確かにしっくりくる。
アウトプットのさじ加減も愉快だ。ラストを飾るM7「涙の上海ナイト」のように確固たるリズムのグルーブと軽快なギターがイメージとしてのシティポップスにもっとも近い楽曲が、歌詞から音まで中華風のフレーズに満ち満ちている点などがそう。一筋縄ではいかないバンドのキュートな知性が見え隠れしていて面白い。
なによりも器用であれどマニアックにはなっていないところが嬉しい。その音はひたすら外に向かって開かれている。

有名どころを引き合いに出すなら彼らがオープニングアクトを務めたこともあるTAHITI80やMaroon5といった軽妙なポップネスを放つバンド、The Flaming Lipsのような華やぎが挙がりそうだ。意外と米米CLUBなんかとも存在感の親和性が高そう。けれどもその裏で、鹿野淳が看破した “退廃的なロックの野生” (「MUSICA」2015年2月号)が匂い立つところも見逃せない。時折、細かな音がささくれ立っているように聴こえるのだ。
(DEMOver.)と付いたWEB公開の音源はそれ自体完成された作品だが、CD版は洗練されたクリアな印象を強めている。ローファイな感覚や余白が味となっているDEMOver.に比べ”退廃”の香は後退しているが、極東EDMとでも名付けたくなるM3「Jungle」などにはその根っこの部分が確かに深く伸びている。
とにかく幅広い側面をかかえた楽曲が満載。

それでいながら、とっ散らかった印象は皆無である。架空の街のサウンドトラックを編むというコンセプト設定による部分、ライブの曲順を意識し、その空気感を封じ込めたのも理由だろう。
でも何よりもatagi、PORINふたりのボーカルの存在が統一感の大きな源泉になっている。
超絶ファルセット使いatagiの、澄んだ少年のようなはつらつとした印象と黒人R&Bシンガー張りのかすれた滋味深さが同居する歌声(「Children」!)。日本の若手ではolde worlde以来の衝撃だ。そしてもうひとり、フランス人歌手を彷彿とさせる、ときに独特の音節で区切られた気だるいスィートボイスのPORIN。
一聴するだけだと日本語に聞こえないんだけど、異国の言語じゃなくてやっぱり日本語――全編英語詞のM4「Lesson」を除いたすべての曲たちにあるこのねじれっぷりには奇妙な温かみがある。どちらのボーカルも、聴いていて耳元を本当に心地良くさせてくれるのだ。とくに「Jungle」のatagiの歌の渋味なんて最高でしょ。
ベースとドラムのリズム陣もまた面白く、M6「It’s So Fine」みたくどっしりと構えた曲あり、M2「4月のマーチ」のように歌詞の感情をさらに前進させる攻撃的なプレイあり。振れ幅が実に頼もしい。そして、その上を熟練の職人の如きギターが自由自在に響き渡る。ギターソロ、酔える。「Jungle」もいいけど、M5「P」での響きっぷり、いやもうたまらない。
こちらもまた声のマジックに劣らず、音が踊ってるから気持ちが浮き立ってくる。

曲を個別に聴いているだけでもフックがたくさんあって楽しいのだけれど、あらゆる距離感を許容する、楽曲群が全体として持ち合わせた懐の深さが最大の魅力だ。
情報量は多いが、ちゃんと引き算でそれぞれの楽曲が成り立っているから(「P」のギターソロはあの長さだからいい)、バーバリーにバーバリーを重ね着するようなトゥーマッチな感覚にもならない。
「ぼく」「わたし」といった一人称が存在しない歌詞もまたいい(英語詞の「Lesson」の「I」は英語ゆえにその”個”性を消しているし、例外的に登場する「It’s So Fine」の「僕」は”物語”のなかのキャラクターとしての「僕」である)。個人的な一押しは「Jungle」のサイケデリックな言語感覚。その他すべての歌詞もまた、詩単体でも作品として成立する極上のリリック尽くしだ。
ともあれ、詩作の行為から個人の主張を一切とりのぞき、普遍的な空気を織り上げ、音の面では限定したジャンル、イメージへの傾倒を避けること――それはつまり特定の機能を優先させないということに他ならない。
最先端のダンスミュージック、泣けるラブソング、人生論を語る応援歌、疾走感のある四つ打ちロック、あるいはリアルタイムの洋楽との同期、それらのどこにも敢えて軸足を置かない。もはやジャンル論は不要。緩やかなBPMの流れにたゆたうグッドメロディと粋なボーカルが聴き手の気持ちを緊張から解放し、自由なリスニングを促す。
個性を消すことで個性を手に入れるなんてことが、情報過多なこのご時世の音楽家に可能だったという事実に、驚きを禁じ得ませんよ。

飛躍した物言いが許されるなら、僕は彼らの音楽に”マジックリアリズム”という言葉を連想した。ラテンアメリカ文学を語る際によく使われる表現技法のフレーズで、小説作品の中ではあたかも幻想のような現実が描かれる。
もちろんこれは音楽表現についてのタームではないのだけれど、架空の街の心象風景を浮かび上がらせるバンドの歌詞とサウンドスケープは、それでいて僕たちの生活と地続きの人間臭さにあふれている。

だから――
通勤通学の車内でも街歩きの最中にも、耳をすませて良い音楽と向き合いたい時間でも、ちょっとした集まりの場で流しても、はたまたうだつが上がらない夜をやりすごすためにでも、その音はすんなりとその場、その瞬間の気持ちに等しく優しく溶け込んでくるはずだ。その上で、僕たちの日常にちょっとした非現実感、非日常感をもたらせてくれる。浸透度の高さ、いい換えれば、人懐っこさこそが、このバンドの奏でる音の本質に違いない。
さまざまな心情に寄り添ってくれる声と演奏。ゆえにこの作品は、どんな心持のときにでも流すことができる。自分だけの特別な日常をデザインするサウンドトラックになり得る。
ジャンルとかプレイの質とか、そんな尺度をこれっぽっちも持たずに音楽に触れていたあのころ。ゴダイゴを日本人とは思っていなかったあのころ。リピートするたびに、幼き日の音楽の原体験に再び接するような気持ちにすら、僕はさせられる。

彼、彼女らの愛すべきデビューアルバムが、メジャーレーベルによって流通する価値は大きいと思う。願わくは、この素敵な音楽が少しずつでも広く広く世界に鳴り渡っていきますように。

1. Children
2. 4月のマーチ 
3. Jungle
4. Lesson
5. P
6. It’s So Fine
7. 涙の上海ナイト

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